インバウンド向けのSNS運用では、「日本語のコンテンツを韓国語に翻訳すれば韓国ターゲットに届く」と考えられがちです。しかし、JAPANKURU((訪日・在留外国人向けの多言語メディア)韓国アカウントの運用データから繰り返し見えてくるのは、翻訳の正確さよりも「言葉の設計そのもの」が反応を左右する、という点です。
同じ内容でも、韓国ターゲットに向けたコピーは、日本語のコピーとは異なる「文法」で組み立てられているように見えます。本稿では、そのうち特に見落とされやすい3点を、日本語コピーとの違いという観点から整理します。
本題に入る前に、二点だけ前提を共有させてください。
ひとつは、本稿が「こう書くべき」という基準ではなく、運用の中で観察されたパターンの共有である、ということ。
もうひとつは、コンプライアンスをめぐる前提の違いです。これから紹介する断定や強調といった表現は、日本企業にとっては広告基準上とりにくい書き方であることが少なくありません。景品表示法などを踏まえると、「必ず」「絶対に」といった言い切りは慎重に扱われる領域です。韓国でこうした表現が成り立っているのは、多くの場合「あくまで体験した本人の感想として」という語り口を伴っているため、また見る側も、広告であっても「なぜそこまで推すのか」に関心を持つ面があるため、と見られます。
ただし、表現の強さと「広告であることの表示」は別の話です。むしろ広告表示(「광고(広告)」「협찬(協賛・タイアップ)」などの明示)は、韓国のほうが厳格な面があります。対価を伴うコンテンツに広告・協賛であることを明確に表示する運用が一般化しており(公正取引委員会の表示・広告審査指針)、この点はむしろ踏み込んだ基準です。つまり韓国のコンテンツは「広告を隠して強く推す」のではなく「広告だと明示したうえで、体験者として強く推す」構造だと見るのが実態に近いように思われます。
こうした前提を踏まえ、韓国向けに調整する際の参考として読んでいただければと思います。

「行動を組み込んだ」フック — 断定から一歩先へ
韓国ターゲット向けのサムネイルコピーは、もともと「断定形」を基本としてきました。「무조건 담아오는(無条件で持ち帰る)おすすめアイテム」「무조건 득템하는(無条件でお得する)グッズの名所」のように、「무조건(ムジョゲン=とにかく、絶対に)」という強調語を頭に置き、読者の行動を先回りして言い切る形です。日本語のサムネイルが「〜におすすめ」「〜はこちら」という提案形を主流とするのに対し、韓国式は提案よりも断定に近い——この温度差が、スクロールを止めるかどうかの分岐点になっていると考えられます。
こうした断定形は現在も有効で、実際のアカウント運用でも引き続き使われています。ただ、ここ数か月の傾向として観察されるのは、断定からさらに一歩進み、「読者の行動そのものをコピーに組み込む」方向への変化です。
具体的には、次のようなサムネイルコピーです。
- 「일본 선크림은 이거 쓰세요(日本の日焼け止めはこれを使って)」
- 「6월 신상 먹어봐야쥬(6月の新商品、食べなきゃ)」
- 「뜯어먹는 오키나와 파인애플(かじりつく沖縄パイナップル)」
いずれも「使う」「食べる」「かじりつく」といった動作の言葉が入っており、読者がその行動をしている場面を思い浮かべやすくなっています。「言い切りの強さ」から「行動を思い描かせる」方向へ、フックの重心が移りつつある——このように見られます。断定形を捨てたわけではなく、その上に「行動」を重ねていく形だと捉えると分かりやすいかもしれません。
口語・強調の「密度」— ただし、ミームには鮮度がある
韓国SNSのコピーは、口語的な強調表現をためらいなく重ねる傾向があります。
例として、大きめの「大王もち」を紹介するコピーに「왕 크니까 왕맛있는(大きいから、すごくおいしい)」というものがあります。ここでの「왕(ワン)」がポイントです。本来は「王」を意味するこの語が、韓国のネット表現では「超・めっちゃ」にあたる強調の接頭語として使われ、それを二度繰り返すことでリズムと過剰なほどの強調を生んでいます。しかも商品が「大王もち」=大きいことと、「크다(大きい)」をかけており、強調と商品の特徴を同時に織り込んでいます。先ほどの「먹어봐야쥬(「食べなきゃ」の砕けた言い回し)」も同様に、標準的な言い方をあえて崩した、くだけた口語表現です。日本語サムネイルの、整理された端正なトーンとは対照的です。
ここで一点、実務上の注意があります。こうした「왕〜」「〜야쥬」といった表現は、その時々のインターネットミームや流行語を取り込んだものであることが多く、鮮度があります。つまり、少し前に流行った言い回しをそのまま使うと、かえって古い印象を与えかねません。この種の口語・ミーム表現を取り入れる際は、今まさに使われている言葉かどうか、韓国側のトレンドを継続的に確認することが欠かせない、と考えられます。
ここで見えてくるのは、こうしたコピーが「翻訳」ではなく「トーンの移植」を必要としているように見える、という点です。直訳すると強調のニュアンスが失われやすいため、実務上は韓国語ネイティブの感覚で、トーンごと作り直しているケースが多いようです。日本語として自然かどうかではなく、韓国のフィードの中で自然に見えるかどうかが基準になります。
「맛집(マッチプ/名店)」の意味拡張 — 最も見落とされやすい差
日本語話者にとって「맛집」は「グルメの名店」、つまり食べ物の店を指す語として理解されがちです。しかし韓国のインターネット表現では、この語が「食」の枠を超えて、「良いもの・良い場所」全般を指すように意味が広がっているように見られます。
実際、雑貨を扱うコンテンツのコピーに「日本のグッズの맛집」、デザートを扱うコピーに「東京・銀座デザートの맛집」といった形で使われています。食べ物ではない対象や、店そのものに「맛집」を当てるこの発想は、日本語の直訳思考からはまず出てきません。
こうした言語感覚のズレは、韓国語を「正しく訳せる」だけでは埋められない領域です。韓国ターゲットに向けたコピーを内製・監修する際、この感覚を押さえているかどうかで、コピーの自然さが大きく変わってきます。
以上の3点——断定形のフック、強調の密度、意味の拡張——はいずれも、「韓国語に正しく訳す」という工程だけでは再現できないものです。韓国ターゲット向けのコピーは、翻訳の先にある「作り直し」を必要とします。
自社コンテンツを韓国向けに展開する際は、まず既存の日本語コピーを一度「提案形から断定形へ」置き換えてみるところから始めると、最初のひと目の強さの違いを実感しやすいかもしれません。
なお、こうした「文法」はコピー(文)の層だけにとどまりません。複数枚のカルーセルや数秒のリールを、どう組み立てるか——という「構成」の層にも、同じ発想が現れます。この点については、近日公開予定の「構成編」であらためて取り上げます。
※本稿は、訪日・在留外国人向けに多言語で日本情報を発信するメディア「JAPANKURU」の韓国アカウントの運用知見をもとに構成しています。