台湾人旅行者が地方や周辺エリアへ向かう背景には、訪日リピーターの増加、地方空港路線の拡充、円安による旅行意欲の高まり、日本各地の情報に触れる機会の増加などがあります。
ただし、それだけでは現在の動きを十分に説明できません。SNS上の投稿を見ていくと、もうひとつ大きな変化が見えてきます。
それは、旅行者が単に「有名な場所を見る」のではなく、「そこでどんな体験ができるか」「その体験をどう写真や言葉で共有できるか」を重視するようになっているという変化です。
今の旅行者は、観光地の知名度だけで動いているわけではありません。むしろ、「自分が行った意味を語れる場所」「友人に見せたくなる体験」「SNSで保存されやすい構図」を求めています。
この視点に立つと、地方都市、駅周辺、商業施設、商店街は決して不利ではありません。むしろ、日常性やローカル感があるからこそ、旅行者にとって新鮮に映る可能性があります。地元の人には当たり前の景色でも、台湾人旅行者にとっては「日本らしい」「生活感があってかわいい」「まだ知られていない」と感じられることがあります。
バズ事例①:青森・弘前公園
その象徴的な事例が、青森県・弘前公園の「桜のハート」です。弘前公園はもともと日本有数の桜名所として知られていますが、台湾人旅行者の間で話題になったのは、単なる花見スポットとしてではありませんでした。
注目されたのは、2本の桜の枝が重なり、空がハート型に切り取られて見える場所です。いわゆる「桜のハート」と呼ばれる撮影スポットで、ここで写真を撮る体験がSNS上で拡散されました。

出典元:https://www.instagram.com/
この事例で重要なのは、話題化した理由が「桜がきれいだから」だけではないという点です。もちろん桜の美しさは入口になります。しかし、台湾人旅行者を惹きつけたのは、それに加えて「ハート型の写真が撮れる」「場所を探す楽しさがある」「春にしか体験できない」「撮った写真に物語が生まれる」という複数の要素でした。
つまり、弘前公園は単なる花見名所ではなく、「行って、探して、撮って、語れる」体験型スポットとして受け止められたのです。
バズ事例②:大阪城とコナンのポーズ
同じ構造は、他の観光行動にも見られます。たとえば大阪城の前で、アニメ『名探偵コナン』にちなんだポーズで写真を撮る人々がいます。大阪城という歴史的なランドマークに、アニメ作品の記憶やキャラクターへの愛着を重ねることで、写真には単なる観光記録以上の意味が生まれます。
そこに写っているのは、「大阪城に行った自分」だけではありません。「好きな作品の世界に入り込んだ自分」であり、「作品の場面を自分の旅の中で再現した自分」でもあります。

※出典元:https://www.instagram.com/
このような行動は、いわゆる聖地巡礼にも近いものです。ただし現在の特徴は、必ずしも作品ファンだけに閉じていない点にあります。SNS上で見たポーズ、構図、投稿文、撮影場所がひとつのフォーマットとして広がり、それを他の旅行者が真似することで、体験が連鎖していきます。
つまり、旅行者はその場所をただ訪れているのではありません。その場所に、自分の好きなものや記憶を重ねているのです。
地域や施設が考えるべきなのは、場所そのものの機能だけではなく、「旅行者がそこに何を重ねられるか」です。アニメ、映画、音楽、季節行事、恋愛、友情、家族旅行、卒業旅行。場所の風景がこうした感情や物語と結びついたとき、その場所は“わざわざ行きたい場所”に変わります。
場所がバズるために必要なのは、必ずしも大規模な観光資源や新しい施設ではありません。すでにある空間の中から、旅行者が「自分も行って撮りたい」と思える体験の切り口を見つけることが重要です。
次篇では、このようなSNS上の反応を実際の来訪につなげるために、地域・交通・施設側がどのような導線を設計すべきかを整理します。