中国・REDで広がる「Sportcation」という新しい旅のかたち
中国のSNS「小紅書(RED)」では、最近「Sportcation」というキーワードへの関心が高まっています。
Sportcationとは、「Sport」と「Vacation」を組み合わせた言葉です。旅行先でスポーツや運動を楽しみながら、その土地の自然や街並みを体験する、新しい旅行スタイルを指します。
これまでの旅行では、観光地を巡る、写真を撮る、人気店を訪れるといった過ごし方が中心でした。一方、近年の中国の若年層、とくにREDユーザーの間では、旅行先でランニングをしたり、ヨガをしたり、海辺で身体を動かしたりするなど、より能動的に旅先を楽しむスタイルが広がっています。
RED上で見る「Sportcation」の人気
今回確認したRED上のデータでは、「sportcation」に関連する投稿数とエンゲージメント数が、2026年4月後半から5月にかけて大きく伸びています。
一度だけ急激に増加したのではなく、期間中に複数回のピークが見られることから、単発の流行語というよりも、旅行、スポーツ、健康的なライフスタイルが重なる新しい関心領域として広がりつつあると考えられます。
【図:REDにおける「Sportcation」関連投稿数・エンゲージメント数の推移】


注:集計期間は2025年12月1日~2026年5月31日。上段は関連投稿のエンゲージメント数、下段は投稿数の推移を示しています。RED上で取得可能な公開投稿を対象とした集計であり、プラットフォーム上のすべての投稿を網羅したものではありません。
「どこへ行くか」から「そこでどう過ごすか」へ
Sportcationの特徴は、旅行先を選ぶ基準そのものが変わっている点にあります。
たとえば杭州を紹介するRED投稿では、有名観光地を順番に巡るのではなく、ランニングシューズを履いて約10キロメートルのコースを走るという切り口が見られます。九溪、茶畑、林道、カフェなどを一つのルートとしてつなぎ、身体を動かしながら街と自然を体験する内容です。
このような投稿では、観光スポットそのものよりも、「どの道を走るか」「どのような景色の中で身体を動かすか」「運動後にどこで休むか」といった情報が重視されています。旅行先の地図を、観光地の一覧ではなく、自分自身の行動によって開いていくような感覚です。
青島でのランニングを紹介した投稿では、旅行や帰省の時間に運動を組み込み、海沿いの道や慣れ親しんだ街を走る様子が発信されています。
そこでは、速さや記録を競うことよりも、無理なく長く走ることや、旅行中に自分の心身を整えることが重視されています。


つまりSportcationにおけるスポーツは、本格的な競技だけを意味するものではありません。旅行中の気分転換や健康管理、自然との触れ合い、街の再発見なども含めた、幅広い体験として受け入れられています。
商品は「旅の体験」に組み込むことで伝わりやすくなる
Sportcation関連の投稿では、商品の見せ方にも特徴があります。
ランニングシューズを紹介する場合も、商品だけを大きく見せるのではなく、「杭州で走る10キロメートルのコース」や「青島の海沿いで楽しむ長距離ランニング」といった旅行体験の中に、商品が自然に組み込まれています。
道路の状態、走行距離、暑さ、足の疲れ、通気性、クッション性などを、実際に使用した体験とあわせて伝えることで、商品の機能が分かりやすくなっています。
ユーザーはまず、「このコースを走ってみたい」「旅行先でこのように過ごしてみたい」と感じます。そのうえで、その体験に必要なアイテムとして商品が紹介されるため、広告としての印象が強くなりすぎません。
REDでは、商品の機能やスペックを並べるだけでなく、実際にどのような場面で使うのかを見せることが重要です。
Sportcationは、シューズやスポーツウェアだけでなく、バッグ、サングラス、飲料、プロテイン、日焼け止め、ボディケア用品など、幅広い商品を旅行中の行動と結びつけやすいテーマだといえます。
日本旅行とも相性のよいSportcation
このトレンドは、日本のインバウンド施策にも活用しやすいと考えられます。
日本には、都市部のランニングコース、海沿いのサイクリングロード、山や高原のハイキングコース、温泉地周辺の散策路、リゾート地で楽しめるヨガやマリンスポーツなど、Sportcationと相性のよい場所が数多くあります。
東京では皇居周辺、代々木公園、隅田川沿いなどがランニングコースとして知られています。関西では鴨川沿い、大阪城公園、神戸の海沿いなどが考えられます。
地方にも、沖縄のビーチ、長野の高原、北海道の自然、瀬戸内のサイクリングルートなど、身体を動かしながら地域を楽しめる場所があります。


投稿イメージ 左:関東でサーフィン(不会画画的小画家) 右:東京でテニス(Lydia Liu)
中国人旅行者にとって、日本旅行の目的はすでに買い物、グルメ、写真撮影だけではありません。旅行中に身体を動かし、その土地の空気や景色を感じる過ごし方は、今後の訪日旅行における新しいテーマになる可能性があります。
Sportcationは、観光地の混雑を避けることや、朝夕の空き時間を有効に使うこととも相性がよいでしょう。
日中は観光や買い物を楽しみ、朝はホテル周辺を走る。夕方には海沿いを歩く。温泉地では軽いハイキングを体験する。このような小さな運動体験も、REDでは十分に発信価値のあるコンテンツになります。
スポーツ用品以外のブランドにも広がる可能性
Sportcationは、スポーツブランドだけが活用できるテーマではありません。
たとえば日焼け止めや紫外線対策用品も、旅行中の運動と非常に結びつけやすい商品です。日本の夏には、街歩き、海辺、山、ランニング、サイクリング、屋外イベントなど、紫外線対策が必要となる場面が数多くあります。
その際、単に「紫外線防止効果が高い」と伝えるのではなく、「日本旅行中に屋外で安心して過ごすための日焼け止め」「朝のランニングや街歩きに使いやすい商品」「汗をかく場面でも快適に使える日焼け止め」といった具体的な利用場面を示すことが重要です。
日本ブランドであれば、日本の気候や夏の過ごし方を理解しているブランドとして、現地の環境に合った紫外線対策を提案することもできます。
実際の日差しの強さ、汗への対応、塗り直しのしやすさ、持ち運びやすさ、メイクとの相性など、旅行者の行動に寄り添った情報を発信することで、商品をより身近に感じてもらいやすくなります。
まとめ
Sportcationは、中国のRED上で関心が高まりつつある新しい旅行スタイルです。
旅行先で身体を動かし、汗をかき、その土地の景色や空気を自分自身で感じる。そこには、従来の観光とは異なる、より能動的で個人的な旅の楽しみ方があります。
ブランドにとって重要なのは、Sportcationを単なる流行語やハッシュタグとして捉えるのではなく、旅行者の具体的な行動として捉えることです。
どこを走るのか、どのような天候なのか、何を着るのか、何を持っていくのか、運動後にどこで休むのか。こうした一連の体験の中に商品が自然に入ることで、広告は単なる商品紹介ではなく、旅行体験を支える情報になります。
日本の観光地やブランドにとっても、Sportcationは訪日中国人に向けた新しい情報発信の切り口になります。ランニング、サイクリング、ハイキング、マリンスポーツ、街歩きなど、日本旅行を「身体で楽しむ体験」としてどのように提案するかが、今後さらに重要になっていきそうです。