インバウンド市場を調べるとき、SNSの投稿数や検索ボリュームは、いまや誰でも数分で集められます。ツールに国名とキーワードを入れれば、数字が返ってきます。

難しいのは、集めることではありません。返ってきた数字を、正しく読むことです。

JAPANKURU(訪日・在留外国人向けの多言語メディア)9カ国アカウントの運用と、各国のSNS・検索データを日常的に見ていくと、同じ数字でも読み方ひとつで結論が反対を向く場面に、繰り返し出会います。本稿では、特に多くの人がはまりやすい「4つの落とし穴」を整理します。数字を集める人ではなく、数字を判断に使う人に向けた内容です。

なお、以下はいずれも「こう読むのが正解」という基準ではなく、現場で観察されたパターンの共有として読んでいただければと思います。

落とし穴① 大きい数字は、そのまま「関心の大きさ」ではない

ブランド名や企業名で検索・投稿数を調べ、数字の大小で関心を測る。自然な手順です。ところが、その数字の中身が、目的と無関係なことがあります。

たとえば中国のRED(小紅書)で、ある日本のビール企業名を指定キーワードにして投稿数を数えると、13万件を超えました。ところが投稿を開いて中身を読むと、同じ表記の俳優名、ジュエリーブランド、ネットスラングが大量に混ざっていました。ビール関連に限定すると、残ったのは約3,000件。実に40倍ほどの開きです。

(RED/投稿数/2025年12月〜2026年5月)

もしこの13万件を「ブランドの関心度」としてそのまま並べていたら、順位は入れ替わっていた可能性があります。数字は正しい。間違っているのは、それが何を数えた数字かの理解のほうです。

厄介なのは、この種のノイズが翻訳ツールでは見つからないことです。表記が同じである以上、機械は区別できません。投稿を開いて、その言語とネット文化の中で読むしかありません。

落とし穴② 一番大きい数字に、線を引いてしまう

複数カテゴリのエンゲージメントを比べるとき、つい絶対値が最大のものに注目します。しかし絶対値は、多くの場合「母数が大きいから大きい」だけです。

中国のREDで「日本旅行+お酒」の投稿を集計した例で見てみます。

カテゴリ保存数(絶対値)
ビール8.27万(最多)
清酒5.39万
ウイスキー2.74万

保存数の最多はビールです。しかしビールは投稿数も「いいね」も最多なので、これは「投稿が多いから保存も多い」以上のことを語っていません。

見るべきは、「いいね」に対する「保存」の比率です。

カテゴリ保存 ÷ いいね
ビール37.5%
清酒53.1%
ウイスキー36.5%

(RED/投稿数・エンゲージメント/2025年11月〜2026年4月)

ビールとウイスキーが37%前後でほぼ並ぶなか、清酒だけが53%と突出します。「いいね」がその場の反応だとすれば、「保存」は「あとでまた見るつもり」という意思表示です。清酒の投稿は、二回に一回以上の割合で保存されています。

清酒は銘柄が多く、名前が読みにくく、店頭で即断しにくいカテゴリです。その場で覚えられないから、保存される——という仮説が立てられます(これは投稿・保存数からの推論であり、保存後の行動を追ったデータではありません)。

もし保存数の絶対値だけを追っていたら、この差は見えませんでした。カテゴリの性質を知りたいなら、絶対値ではなく比率です。

落とし穴③ 「二つのデータが矛盾している」——本当に、そうですか

自社で二種類のデータを持っていて、片方と片方が食い違う。そういうとき、「どちらかが間違っている」と考えたくなります。

しかし多くの場合、二つはそもそも別の集団を数えています。

具体例で言えば、「その国の国内での検索ランキング」と「日本旅行中のSNS投稿」は、別のものです。前者はその国の人口全体(国内での購入も含む)を映し、後者は旅行中の人だけを映します。前者で上位のブランドが後者にほとんど出てこなくても、それは矛盾ではありません。見ている人が違うだけです。

二つのデータを突き合わせる前に、確認すべきことがあります。それぞれ、誰を数えた数字なのか。 母集団が違うデータを「矛盾」として読むと、ありもしない謎を追うことになります。逆に、母集団の違いを意識すると、「旅マエ(国内)と旅ナカ(訪日中)で関心が別」という、使える構造が見えてきます。

落とし穴④ 「投稿がない=関心がない」ではない

あるカテゴリのSNS投稿が少ない。だからそのカテゴリへの関心は低い——この推論は、しばしば外れます。

たとえば缶のお酒は、SNS上であえて投稿される機会が比較的少ない傾向があります。ですが、それは「関心がない」からとはかぎりません。そもそも投稿の題材になりにくい、という媒体側の事情かもしれないのです。おしゃれなカフェや盛り付けの美しい料理は写真に撮られますが、コンビニで買った缶を「わざわざ」投稿する動機は弱い。投稿の少なさは、消費の少なさとイコールではありません。

投稿量を関心の代理指標にするのは便利ですが、「投稿されやすい題材か」というフィルターが手前にかかっていることを忘れると、投稿されにくいだけの有力カテゴリを見落とします。「語られていない」と「関心がない」は、分けて考える必要があります。

どう読み直すか

4つに共通するのは、数字そのものではなく、数字の“前提”を読み違えているという点です。実務に落とすと、確認すべきは次の4つです。

1. その数字は、何を数えているか ——ブランド名の投稿数には、同名の別物が混ざる。中身を開く。

2. 絶対値か、比率か ——母数の大きいカテゴリは絶対値で常に勝つ。性質を見たいなら比率。

3. 誰を数えた数字か ——母集団が違うデータは、突き合わせても「矛盾」しない。別の話をしている。

4. 投稿されやすい題材か ——投稿の少なさは、関心の低さとはかぎらない。媒体の事情を差し引く。

そして、これらを扱うときの大前提がひとつあります。投稿数・検索ボリューム・エンゲージメントは、それぞれ別の軸です。 「どれだけ書かれたか」「どれだけ探されたか」「どれだけ反応されたか」は、混ぜて比較できません。本稿でも、①と④はRED投稿数、②はREDのエンゲージメント比率、③は検索と投稿という異なる指標を扱っています。数字を出すときは、必ず(プラットフォーム・期間・指標の種類)をセットで併記する。そうしないと、次に読む人が同じ誤読を繰り返します。

自社の手元のダッシュボードを、まず「この数字は何を数えた数字か」という一点で見直してみると、順位や結論が変わって見えるものがあるかもしれません。