タイ国政府観光庁(TAT)は、2027年の国内・海外旅行を合わせた観光収入について、2兆7,600億~2兆9,000億バーツを目標とする方針を示しました。日本円に換算すると、約12兆1,000億~12兆8,000億円規模となります(※1バーツ=約4.4円換算、2026年7月時点の参考値)。外国人旅行者数は3,300万人超を維持しながら、旅行者一人当たりの消費額を高める戦略を強化します。
TATが特に重視しているのは、1回の旅行で平均約5万2,000バーツを消費する高消費層です。日本円では約22万9,000円程度に相当します。現在、この層は外国人旅行者全体の10%未満にとどまっていますが、2027年以降は年間10%以上のペースで拡大していく計画です。
タイ政府は、旅行者数の増加だけを追うのではなく、消費額や滞在期間、旅行目的などを重視する「量から質」への転換を進めています。重点分野としては、MICE(会議・報奨旅行・国際会議・展示会)、医療・ウェルネス、スポーツ、教育、デジタルノマドなど、明確な目的を持つ旅行市場を挙げています。
また、南アフリカや東欧、中南米など、今後の成長が期待される新興市場の開拓にも力を入れる方針です。既存の主要市場だけに依存せず、旅行者層を多様化することで、観光収入の安定的な拡大を目指します。
国内旅行についても、タイ国民の年間旅行回数を現在の平均約2回から3回以上へ引き上げ、2027年には年間2億300万回の国内旅行を目標としています。今後のタイでは、旅行者数そのものの拡大よりも、滞在中の消費や体験価値を高める政策がさらに進むとみられます。
この動きが示すもの
今回の発表で注目したいのは、タイが外国人旅行者数の拡大そのものよりも、旅行者一人当たりの消費額や訪問目的を重視している点です。3,300万人超という目標は大幅な人数拡大を打ち出すものというより、一定の来訪者数を維持しながら、より高い付加価値を生む旅行者層を増やす方向性を示しています。
ここでいう高付加価値旅行者は、必ずしも富裕層だけを指すものではありません。ウェルネス、MICE、スポーツ、教育、長期滞在など、明確な目的を持つ旅行者は、宿泊や移動、体験、買い物など複数の消費につながりやすい層です。つまり、タイは「たくさん来てもらう」だけでなく、「何を目的に来て、どのように滞在中の価値を高めるか」という設計に軸足を移しています。
この考え方は、日本のインバウンド施策を考える上でも参考になります。日本でも近年、単純な訪日客数だけでなく、高付加価値旅行や地方周遊、体験型消費の重要性が高まっています。タイの動きは、アジアの観光市場全体で「量から質」への転換が進んでいることを示す一例といえます。
一方で、タイが高消費層や目的型旅行者の獲得を強化することは、日本にとって競争環境の変化も意味します。日本の観光地や企業には、単に「人気の旅行先」であることを訴求するだけでなく、その地域でしか得られない体験や、長期滞在につながる商品設計、ウェルネス・MICE・スポーツなど目的別の訴求がこれまで以上に求められます。
観光客数の多さではなく、どのような旅行者に、どのような価値を提供するのか。今回のタイの方針は、日本企業やインバウンド担当者にとっても示唆の多い動きといえそうです。
参考データ
- 観光収入目標:2兆7,600億~2兆9,000億バーツ
(約12兆1,000億~12兆8,000億円) - 外国人旅行者数目標:3,300万人超
- 高消費層の平均旅行支出:1回当たり約5万2,000バーツ
(約22万9,000円) - 重点分野:MICE、医療・ウェルネス、スポーツ、教育、デジタルノマド
- 方針の特徴:旅行者数の拡大よりも、消費額・滞在価値を重視
※円換算は、1バーツ=約4.4円として編集部試算(2026年7月時点の参考値)です。
出典
・Bangkok Post
“Agency pursues growth through niche tourism”
https://www.bangkokpost.com/business/general/3285645/agency-pursues-growth-through-niche-tourism